花嫁の父。

 

 

 ちょっときつい戦闘が続いて、やっと町が見えたときはちょっと万歳とかみんなでしそうになって、もう日は落ちかけていて、家路を急ぐ人が結構いて、その中に肩車されている子とかいて、その下にはがっしりした父親がいたから、なんとなくティアは言った。





「私って、父親いるのかしら」





「ガイラルディアさーん、ガイラルディアさーん」

 それはぼそっと本当に小さくつぶやかれた声ではあったけれども、見通す人ジェイド・カーティス的に聞き逃せない台詞だったので、池の鯉を呼ぶみたいな感じに手を無造作に叩いきながら、ガイラルディア・ガラン・ガルディオス伯爵を呼んだ。

「ん? なんだ?」

 少し前を歩いていた薄い金髪の青年は、振り向いて訪ねる。

「なんだか、ティアがルークみたいなことを言い出したので、ちょっと教えてやってあげてくれませんか」

「ルークみたいなこと?」

「はい」

 ジェイドの顔は至ってまじめだった。ガイは首をかしげる。

「何を教えて欲しいんだ?」

 何か見知らぬ音機関でもあっただろうか。ガイが尋ねるとジェイドはしれっと言った。

「子供の作り方を」

 歩いていたティアが足下の石に蹴躓いた。

「な、な、な」

「何を言ってるんだ、ジェイド・・・・・・!」

 ティアもガイも顔が真っ赤になっているが、ジェイドは淡々と続ける。

「ガイは、ルークを育てた経験があるでしょう。如何せん、私には子供どころか妻もいませんからね。ここはベテランに任せた方がいいかと」

「俺にだっていないわ……!」

「っていうか、私そんなこと聞いていません……!!」

「おや? 今さっき自分に父親がいるのかと呟いたじゃないですか」

 どこまで本気なのか、ジェイドはいけしゃあしゃあと首をかしげて尋ねた。

「そんな意味で言ったんじゃありません」

 頭痛がしてきたのか、額を抑えて疲れたようにティアは言った。

「単に私の中で父の印象が薄かったから、言っただけです」

「…………」





 母親の胎内の中にいる時に、少女はクリフォトに落ちた。その時、ティアとヴァンの父親はガルディオス家を守るために戦っていた。

 クリフォトでは父に代わり兄が少女を守り育ててきた。

 彼女にとって、母、年上の女性の庇護を求める気持ちはあろうと、年上の男に対するそれはヴァンに満たされてきたのだろう。





「……立派な人だったよ、君のお父さんは」

 優しい声でガイは言った。

「とても強かった」

「……そう」

 小さくうなずいて、ティアは笑った。

 少し、くすぐったげな顔をしていた。





 足取りが軽くなったティアは小さく背伸びをしながら言った。

「会うは無理でも、せめて姿絵でも残っていればよかったのに」

「ヴァンは、父親似かな」

「私は?」

「君はお母さん。あの人も美人だった」

 遠回しにほめられて、ティアは微かに紅潮する。本当にこの人はそういうのが上手いなんて思う。

「生きてたら、……大佐ぐらいかしら?」

 ガイと話すきっかけを作ってやって、自分の仕事はおしまいと思っていたジェイドは、突然よりにもよってそのタイミングで自分の名前が出てきたことにぎょっとする。

「……ティア? 確かに私と同じぐらいの年になれば子供を持っている人は多いですが、だからってこんな大きな娘を……」

「でも、大佐は確か35歳でしたよね? 私、今16ですから……」

 16歳らしくない16歳の少女は、こんな時ばかり年相応のあどけなさで首をかしげた。

「……そうか、ティアが生まれた時、ジェイドのダンナは19か……」

「名家では早婚も珍しくないですよね。だったらあり得ない話でもないと思うんですが……」

「あなたには兄がいるでしょう。いくつの時の子になるんですか」

 ジェイドは本気でいやそうにため息をついた。

「でも、大佐がお父さんだったら私はうれしいと思います」

「やめてください。どっと疲れてくる」

「あら、私が娘じゃいやですか?」

「勘弁してください。親子で観光旅行してるなんて、考えたくもありません」

 その話を聞くともなしに聞いていたルークが(賢明にも口は挟まなかった。子作りどうのこうのなんてネタでジェイドにつつかれたくはない)、ガイの腕をひっぱってぼそっと言った。

「ティアって結構怖いもの知らずだよな……」

「……あぁ、恐ろしいことを言う……」

「ジェイドが父親って、どんな冗談だ……」

 脳内に、赤ん坊を高い高いとかするジェイドの姿を思い浮かべて鳥肌が立った。

「ありえねぇ。絶対ありえねぇ」

「……まぁ、それもいいかもしれないですね」

 ルークの独り言が聞こえたジェイドが裏が全くないように見えるから恐ろしい笑顔でルークの肩をつかんだ。





「……ティアを嫁に欲しいと言いにきた男を、せいぜいいびり倒してやるとしましょう」







 騒がしい集団が、人混みの中に消えていった。

 

 


いびり倒されるがよい。