a wheedling child.





 体がずきずきする。喉の奥が熱くて酷く乾いている。

 頭が痛い。心臓の鼓動と共に頭まで痛む。

「……ん……」

 ティアは、何かを言おうとして上手く動かぬ自分に気がついた。熱い。自分は体調を崩したのかと朦朧とした頭で考えた。ここは何処の街だったか。目を開けば多少の手がかりは得られるのだろうが、それすら億劫で、ただ柔らかい寝台の感触が有り難かった。

 もう少しこのままでいたい。寝返りをうつことすら今は面倒くさかった。指先がとても遠くに感じる。

 意識の覚醒が身体の覚醒に繋がらなかったが、ティアは今はそれに逆らおうとせず、瞳を閉じたまま横たわっていた。

 ふと、扉を開く音がした。誰かが入ってくる気配がする。誰だろう。

 その人物は足音を立てずに近寄り、額に手を伸ばす。その手の動きに合わせて額が熱く感じた。冷やした布が当てられていたことを知る。

「……大丈夫ですか?」

 これは誰だったろうか。目を開ければいいだけのことだが、ゆっくりと上半身を抱き起こされ、その必要性を感じなくなる。こんな優しい手の持ち主など、目を開けなくたってわかる。ティアは上半身の体の力を抜いた。

「熱がまだ下がらないようですね。食欲はありますか?」

 何時からあの人はこんな言葉遣いをするようになったのだろう、おかしくて小さく肩を振るわせた。

「薬を持ってきました。飲めますか?」

 口元に器が当てられる。

「……んん……」

 そこから立った匂いに思わず眉を潜めて首を振り、その人の胸元にむずがるように顔を押し当てた。

「こら、駄目ですよ。飲まなくちゃよくなりません」

「んー」

 窘める声に、ティアは渋々口を開いた。どろりとした感触とえぐい苦みが喉を通ってゆく。思い切って嚥下すると、えらいえらいと頭を撫でられ、絞りたての林檎の果汁を飲ませてもらった。

「では、またゆっくり休んでください。今は眠ることが何よりの薬です。寒くはありませんね。必要なら毛布をもらってきますが……」

 あれこれと世話を焼いてくれる人に首を振って断る。

「では、お休みなさい」

「……うん、ありがと。兄さん……」

 それだけを口にして、ティアは再び体を横たわらせた。





「……うん、ありがと。兄さん……」

 去りかけていたジェイドは、その言葉に思わず凍り付く。ゆっくり振り返ると少女はもう寝息を漏らしていた。

「あんなに渋い声をしていますかねぇ、私は……」

 思わず独りごちる。いくら高熱に浮かされていたとはいえ、それはあんまり嬉しくない。

 ジェイドは大きく溜息をついてから、再び彼女に近寄り当て忘れていた布を手にとって冷水につけて絞り再び少女の額に乗せた。少女の顔が安堵に緩むのが見て取れる。

「……ゆっくり休みなさい、メシュティアリカ」



 そして、ゆっくりと扉は閉められた。







 後日。

すっかりティアも復調し、労る必要を皆が忘れかけた頃、ジェイドは唐突に言い出した。

「あ〜、そういえば、ティア」

「はい?」

 その日炊事当番にあたってしまったルークの指導をしながらティアは返事をした。ルークはなかなかの出来映えなのか、得意げにスープを器に装っている。

 そんな二人に微笑ましげな視線を送りつつ、中年男はろくでもないことをのたまった。





「ティアは病気になると甘えん坊になるんですねぇ」





「――――――――」

「…………あ、あづぅ……!!」

 ティア、固まる。ルーク、スープを徐ろに自分の手にかけた。

「おい、ルーク、大丈夫か……!!」

 ガイが焦って冷水をかけるが、二人はそれどころではない。

「な、なななな、何を言ってるんですか、大佐……!!」

「ジェ、ジェイド、お、お前、お前……!!」

 二人して顔を真っ赤にしているのをとてもとても楽しそうに見ながら、さらにジェイドはたたみ込む。

「慌てなくても大丈夫ですよ〜。可愛かったですから〜」

「か、可愛いって……」

「ティ、ティア、お前ジェイドに何したんだ……!!」

「な、何したって、するわけないでしょ! バカ……!!」

「だって、ジェイドが……!!」

「大佐の冗談を一々真に受けないで……!!」

「おやぁ、悲しいですねぇ、ティア。貴女は何も覚えていないんですか? 可愛かったのに」

「た、大佐もいい加減にしてください……!! 私は何も……!!」

「……え、本当に覚えていないんですか?」

「…………え? 私、本当に何かしたんですか……?」

「ほら、やっぱりそうなんじゃないか! ティア、お前ジェイドに何を……!!」





「……遊ばれてますわね」

「……遊ばれてるな」

「……楽しそうだなぁ、大佐」

「止めるべきですの?」

「……いいんじゃないか?」

「そうだねぇ。アニスちゃんお腹空いちゃったよ」

 そして、三人はとりあえずルークお手製のスープを飲むことにしたのだった。