Posture is good. 




キムラスカ王国のファブレ公爵と言えば、無く子も黙る大貴族だ。インゴベルト九世の信も篤く、国王の妹を妻に娶り繋がりも強い。

 その大貴族の唯一の跡取りであり、王位継承権も3位ぐらいに位置づけていたりする彼は、地べたに座り込んで食事を取っていた。

「ごめんなさいね。こんな食事しか作れなくて……」

 食事当番に当たっていたティアは申し訳なさそうに肩を縮めた。補給がここの所満足に出来なかったため、今日の食事はただのおにぎりに、野菜の歯切れを申し訳程度に入れたスープだった。

 野営に慣れたティアや軍属の人間達にはなんてことない食事だが、何せここには異様に舌の肥えた王族二人がいらっしゃる。仲がそれほど良くなかった頃は大して気にしなかったが、気心が知れれば知れるほど返って申し訳なくなる。

 だが、ルークもナタリアもなんてことなさそうに、それを平らげいてる。

「いや、別にいいよ。食材が足りないのはティアのせいじゃないんだし」

「えぇ、それに質素でもとても美味しいですわ」

「そ、そう……?」

 少しは気が軽くなったのか、ティアも安心して食事を続けた。

「…………」

 ルークは左手の指先についた米粒を舐め取りながら、ティアを見た。

 彼女も地面に直接座り込んで食事を取っている。初めて会ったときには本当につっけんどんできつい女だと思っていたが、いや今も結構きついが、それでも今近くにいる彼女の表情はとても穏やかなものに思えた。

 凛と背筋を伸ばし、しなやかに光る髪が、その背中にそって真っ直ぐ落ちる。少ない食料を食べるときの知恵だろうか、少しずつ米を食み、何度も咀嚼してから飲み込む。細い喉が波打つように動いた。

「……ルーク?」

 視線に気づいたのだろう。ティアが訝しげに首を傾げた。それに合わせてさらりと揺れる髪が綺麗で、ルークは思わず思っていたことをそのまま口にした。

「いや、ティアって物食うときも姿勢がいいんだな」



 奇妙な、ちょっと痛いような沈黙が落ちた。



 褒められた、のだろうか。

 けなされてはいない。絶対にいない。それは分るが、だからってその褒め言葉はどうなんだろう。

 姿勢がいい。

 姿勢がいい?

 ありがとう。言うべき台詞はそれなのか。

 っていうか、何を見ているんだ、彼は。

 何を。





 ティアは失策は、黙り込んだことだろう。さらりと「ありがとう」なり「何を言ってるの」なり言っておけばそれですんだものを。

 その決して長いとも言わない沈黙はしかし、彼らを生き生きとさせるには十分だった。

「いやぁ、ルークはよく見ていますねぇ……!!」

「ほんと〜〜!! やだぁ、ルークってばぁ〜〜!!」

 超生き生きしていた。

「な、なんだよ! 別に変なこと言ってないだろ……!!」

「えぇ、言ってません言ってませんとも。ただ、ティアの姿勢がいいだけですよね!」

「そうそう! ティアの姿勢がいいってだけだもんね!!」

 そう、それだけのことだ。だが、それを連呼されるとなんだかとても恥ずかしくなってきて、ルークの頬は徐々に紅潮してきた。

「いやぁ。確かに。確かにティアは姿勢がいいですねぇ」

 ジェイドはとても楽しそうにティアの肩を叩く。

「な、そんなことありません……!!」

「そんなことなくないよう。ティア超姿勢いい〜〜」

 アニスがティアの腕にしがみつく。

「羨ましいですねぇ。ティア〜。私も精進しなければですねぇ」

 全くその気もないのに、しれっというジェイド。

「ほんと〜。私もティアみたいになりたぁい」

 なりたいのは別の所だろうに、白々しく言ってのけるアニス。

「ル、ルーク!! 貴方が、変なこと言うから……!!」

 悪意というかからかう気をばしばし感じて、赤くなったティアが矛先をルークに向けた。

「別に変なことなんか言ってねぇだろ……! 俺はただそう思っただけで……!」

「そう思っただけ。そう思っただけ……!」

「いいねぇ。若いねぇ。愛だねぇ……!!」

「あ、あいぃ……!?」





 なんだか、二人して真っ赤になってどうにも収集がつかなくなってるのを、ガイは遠巻きに眺め、何にしても米が旨いのはいいことだと一人現実逃避に走っていた。

 


ジェイドとアニスは、本当によいキャラだと思う。本当によいキャラだと思う。