one-way





「……大丈夫、なんでしょうか……」

 京都は鞍馬に向かう3人組の背中を見送りながら紫上結奈は不安げに呟いた。一体何の話をしているのだろうか。先ほどから一ノ瀬伽月がしきりに騒いでは伊波飛鳥の背中をばしばし叩いている。

 声は聞こえないが、内容は想像できるようで、きっとその斜め上を軽々と飛んでいるのだろうなぁと思う。

「飛鳥が心配か?」

 後姿を見送る結奈に、九条綾人が声をかけた。その声はいつもどおり涼やかでそれが少し腹が立つ。

「宗家は心配ではないのですか?」

 まだ験力に目覚めたばかりだというのに、那須乃との連携の取れてないままでのお役目に向かった彼ら。

「やはり、私が行った方がよかったのではないでしょうか」

「甘やかすばかりがいいわけじゃないさ。いい経験になるだろ」

「ですが」

「結にはこっちの仕事を手伝ってもらわねばならぬ。心配だからと一々手伝ってやるなんてそんな悠長なことを言ってる暇なくなる事態だって想定できるしな」

「そう、ですね」

 納得しきれぬままそれでも頷く。もう一度彼らの後姿を見る。

 伽月が飛鳥の頭をどついていた。

「……そうですね」

 決して深刻ぶらないあのパワーに少し羨ましくなる。つい微笑んでしまった。そんな顔を九条はおやっと眺めやったが、結奈は気付かず踵を返して歩き出した。

「結?」

「お役目があるので、失礼します」

「? いや、その仕事は俺と一緒に……」

 言葉の意味を捉えかねて眉をしかめた九条に、結奈は冷たい声で答えた。

「いえ、綾人様は急用が出来たとお聞きいたしましたので」

 九条の脳裏に、伊波の顔と先ほど彼に押し付けた野点が浮かぶ。

「……あ〜、いや、結。あれはな……」

「久々にとても楽しい野点でした」

 何の邪魔も入りませんでしたし。

 微笑んでいるが、目が冷たい。

「おい、結」

「これからは野点の時には伊波君を誘うことにしようと思います。伊波君も楽しんでくれたようですし」

「結」

「次の野点の時には新しい着物をおろそうと思ってるんです。季節にあったいい柄の物が手に入りまして……」

「――結!」

 少し強めの声。それだけでもう何も言えなくなる。

「わかった。俺が悪かったからそれくらいで勘弁してくれ」

「……申し訳ありません」

 ため息をつきながら言った九条に調子に乗りすぎたことを悟り、結奈は思わず俯く。

「なんでお前が謝る……」

「…………」

 唇を小さく噛む少女を見下ろし、九条はため息をついた。



 この張り詰めた糸を。

 思う。

 この張り詰めた糸を、どうやればほどいてやれるのか。

 何時かその糸が切れてしまう時が来てしまいそうで。自分を一人置いて切れてしまう時が。

 それを許さないと思う心と、自分が傍らにある限りその時は来ないだろうという予感というには強すぎる確信が心の中で幾重にも絡まる。

 手を伸ばしても届く気がしない。

 彼女の中に映る自分はあまりに潔癖で、堕ちることを認めない。

 それでも。





「結」

 一人置いていくことだけは。

「行くぞ」

 それだけは許さない。

「……はい」

 顔を上げた腹心の目を見た。汚せないその瞳。この美しさを尊く思う。

 踵を返せば、少し後ろに続く足音。それに満足する。



「……しっかしなぁ」

 もう少し、肩の力の抜き方を覚えてはくれないものか。

「伽月ほどになれとは言わないから……」

「え?」

 ぼそっと言った独り言に結は不思議そうに問い返した。

「いや、なんでもない」

「……そういえば、総代」

「ん?」

「別に、私伊波君だけが心配なわけではありませんよ?」

――飛鳥が心配か?

「…………行くぞ」

「はい」





 それは、まだ二人であれた頃のなんと言うこともない会話。

 


九条×結奈が好きです。

だって「綾人様」「結」だよ? 何やるにもナチュラルに一緒だよ? これではまらないわけがあろうか。あるまい。

というわけで転生學園幻蒼録に手を出してみました。あ〜、二人が大好きです。