7歳の頃の事だった。

「も、うちょっと……!」

 倉庫の上の方に入っている箱が取りたくて、足場になる椅子を見つけたけれどそれにのっても足りなくて、椅子にもう一つ小さな椅子を重ねてその上に登り背伸びした。何とか取ろうともがく内に、周りの埃を振動で落としてしまってけほっとなる。やっとそれを指先に掴んだ。

 と、その時。

「うきゃああ」

 もうちょっととつま先立ちした時、つい踏み台のバランスを崩した。一瞬で世界が変わりしこたま床に打ち付けられる。

「いったぁあああ」

 腰と背中と後頭部と右肘。強い衝撃が走った。

「あうぅ」

 痛い。涙が滲んだ。

「…………」

 薄暗い倉庫、天井が見えた。

「……あぁ」

 今、自分がここにこうやって転んでいることを、世界中の誰も知らないんだ。

 不意に気づいた。

 ここでこうやって転んで、泣きそうなことを、誰も知らない。

「あぁ……」

 誰も、知らない。





 別にいいけどさ。

 小さく呟いて、フェアはじんわりと痛みが熱に変わり、それが収まるまでずっと寝ころんでいた。







 そして、8年後。

「も、うちょっと」

 倉庫の上の方に入っている箱が取りたくて、足場になる椅子を見つけたけ、その上で背伸びをした。指先が箱に引っかかる。大丈夫、いける。確信した時に、思わず力んだ。

「うきゃああ」

 そして、再び世界が変わる。

「いったぁあああ」

 腰と背中と後頭部と右肘。強いのはデジャビュ。

「……私って……」

 それでも自分は大きくなったから、大丈夫。

「あ〜も〜」

 とりあえず痛みが引くのをやり過ごすために、暫くそのままの体勢で寝転がっている。

 寝っ転がったって天井までの距離は変わらないけど、もう手の届かない天井だって怖くない。怖くないけど。

「ご主人!? どうしました……!?」

「シンゲン?」

 倉庫に飛び込んできた人影にフェアは目を見開く。転がった椅子と寝そべっている少女の姿を見て、現状を把握したシンゲンは呆れたように溜息をついて少女の傍らにしゃがみ込んだ。

「ご主人。高い所の物が取りたいのだったら、自分を呼んでくださいよ。いくらでもやりますから」

「だって……」

「ほら、立てますか?」

「…………」

 すっと、何気なく、当然のように差し出される手。大きくて、ちょっと冷たくて、でも絶対に自分を見捨てない手。

「……ご主人?」

 その手を取る。引き起こされる。その力に逆らわず、でもそれだけじゃ足りなくて、フェアはシンゲンの体に抱きついた。

「どうしました? そんなに痛かったですか?」

 頭をシンゲンの胸に押し当てて首を振った。でも、逃がさないようにきゅっと服の後ろを掴む。

「……フェア?」

 何を察したのか、声音がちょっと優しくなって、頭を撫でられる。



 あぁ、もういいんだ。我慢しなくて、いいんだ。

「フェア、これじゃ動けませんよ」

 呼びかける声に頭を振り続けて、少女はもう少し、多分困ったフリして全然困っていないこの侍に我が儘をふるうことにした。





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しかし、幼少のみぎりのことを考えるにつけ、やっぱケンタロウ氏5歳で置いてけぼりはどうなの?という気がひしひしひしひし。まだ2週目第4話で止まっているので、彼の真意がしっかり分かってるわけでもないんですが、ひしひしひしひし。