口説こうとすると逃げられて、甘くすると怯えられる。これでも結構シンゲンは困っていた。

 それなりに顔はいいつもりだし、酒場に行けば秋波を送ってくる女性に事欠くことはなかったし、それに任せて結構好き勝手してきた過去もある。それが女性との付き合いの上で有効になることはあれ、足枷となる日が来ることになるとは思わなかった。

「……足枷となることになるような女性に惹かれることが予想外、か」

 まさか、自分がこんなピュアな恋愛にはまることがあろうとは。似合わないにも程があると笑っちゃうわ、過去の悪行のせいでほんっと居たたまれないやら。

「あぁ、もうほんっと」

 忙しいやらで店の主人たるフェアは白米と味噌汁をこさえると、留守番お願いと言い残して出て行った。それだけ忙しくても自分を苦手としていても、ちゃんと食事を与えていってくれるのだからなんと心根の優しいことか。調子が狂う。

 自分がとっくの昔にすり切らしてしまったものをまざまざと見せつけられ、一種の自虐プレイのような気さえしてきて本当に自分が何故惚れているのか偶に分からなくなる。

「……美味いなぁ、もう」

 ずずっと味噌汁をすする。

 あれだけ厭った世界なのに、舌に染みる塩気に泣きそうになる。もう二度と食べられないと思った。

「……あぁ、もうほんっと」

 ぐっだぐだに甘やかしてメロメロしたい。



 もしかして、自分すごい純情なんじゃないかと、思いっきり勘違いしながらシンゲンは残った白米をかっこむのだった。