「ねぇ、真田先輩。桐条先輩の気をひくには、何プレゼントしたらいいっすかねぇ」

 それはある日の夜、風花が体調を崩し、ナビなしに登るのも危険だとタルタロス探索を控えてロビーになんとなくたむろしていたときのことである。順平のその言葉に、その場にいた真田、高里、天田がふっと顔を上げた。

「え、順平さんってもしかして美鶴さんのこと好きだったんですか?」

 驚いたような、楽しいこと見つけたみたいな、そんな顔してあわあわと身を乗り出してきた。

「ちっげぇよ。同じクラスの奴に、桐条先輩にあこがれてる奴がいてさ」

 それで今度告白しようと思って同寮の順平に相談してきた。それを告げると、天田はあからさまにがっかりしたようになんだと肩をすくめた。

「つったって、俺もよくわかんないし。真田先輩なら知ってるかなって思ったんすけど、どうです?」

「美鶴の気をひく物なぁ」

 夜食の牛丼をかっこむ手を止めて考えた。

「……あいつはなぁ」

 美鶴が喜ぶプレゼント。美鶴が喜ぶプレゼント。

「どんなものを贈ってもちゃんと喜ぶと思うぞ」

「それじゃ参考にならないですよ。なんか、こう、ぐっと心を掴んじゃってきゃってなるような」

「所を想像できるのか? お前は」

 ご親切に身をくねらせた順平に呆れた目で言う。

「でも、美鶴さん相手じゃちょっとやそっとなものじゃ駄目なんじゃないですか? それこそ高校生でどうにかなる程度の金額のものに心が動くかなぁ」

 他人事なので天田は勝手なことを言う。

「何をもらったって無碍にするような奴じゃないさ」

 誤解されないように真田はフォローを入れる。

「だが、如何せん小さい頃から物をもらい慣れしてるからな。しかも、下心つきの物ばかりだ。学生になって自分に純粋に好意を寄せられてても、それに気づかないんだ、あいつ」

 そして、物の価値にも無頓着だ。学生がどれだけ奮発して物を贈っても、ありがとうの一言でさらっと流されてしまった奴をたくさん知っている。

「まぁ、あれだ。あまり気を落とさないことだな」

「ぶつかる前からなぐさめっすか」

 所詮他人事なので順平もへらへら笑う。

 と、その時徐に高里が口を開いた。





「あぁ、でも桐条先輩たこ焼き屋に連れて行ったら、すごい喜んでましたよ?」





 空気が一瞬凍った。

「……え? お前、一緒に行ったの? たこ焼き屋」

「あぁ」

「え、なんでですか?」

「え? なんでって?」

 自分がしたことの意味がよくわかっていないのか、高里は首をかしげる。

「お腹すいてたから一緒に食べに行っただけだよ」

「一緒に?」

「一緒に」

 あぁ、でも。

 高里は何気なく呟く。

「ワイルダックバーガー行ったときも、喜んでたなぁ。案外素朴な物の方が喜ぶんじゃない?」

「……高里」

 動揺を抑えて真田が言う。

「お前、ワイルドダックバーガーに連れて行ったのか?」

「はい」

「美鶴を?」

「はい」

「あの、美鶴を?」



「あぁ、そういえば、真田先輩とは店の前までは一緒に行ったことあるんでしたっけ」

 美鶴先輩が言ってました。



 さりげない爆弾を情け容赦なくたたみかけてくる高里に、真田が固まる。

「桐条先輩、自分がお嬢様だってことにコンプレックスもあるみたいですね。自分は世間知らずだってちょっと悩んでましたよ」

 そんな悩み相談までしてるんだ。俺にそんな話したことないのに。

 口には出さないが、オーラがそう語っている。

「そんなこと気にしなくてもいいしょうに」

 理解者な顔を押して笑う高里、凍り付いていく真田、もう勘弁してやれの順平と天田。



「案外可愛いですよね。桐条先輩」



 本当に勘弁してやれ。





 その場の空気に居たたまれなくなった順平と天田がそっとそこを去り、自分の発言をよく理解していない高里が部屋に戻り、そしてロビーに真田が残された。そこに風花の看病から帰ってきた美鶴が降りてくる。

「明彦」

「あ、あぁ、美鶴か……」

 少し呆けた顔で答える。

「どうした? 疲れてるぞ? お前まで風邪をひいたか?」

「あ、いや、大丈夫だ。山岸の様子はどうだ?」

「ちょっと疲れてただけみたいだ。明日には熱も下がるだろう」

「そうか、ならよかった」

 そうだなと言って、向かいに美鶴が腰を下ろした。テーブルの上に置いてあった雑誌を取り上げそれをめくる。真田は、なんだか面白くない気持ちでそれを見ていた。

――「案外可愛いですよね。桐条先輩」

 そんなのは、知らない。

「……明彦? どうかしたか?」

 凝視している真田に気がついたのか、美鶴が顔を上げて尋ねてきた。それはいつもの表情だ。

 美しくどこか現実離れして、隙がない。

 そんな美鶴が、たこ焼きを食べて喜んだという。

「いや、なんでもない。……それより」

 そんなの、知らない。だから。





「牛丼でも食うか?」





 食べさしのそれを差し出したら、美鶴は切れ長の瞳を大きく見開いた。

「美鶴は海牛って知ってるか?」



 とりあえず今日はその表情に溜飲を下ろすこととした。