それは偶々訪れた時間であった。学校から帰ってきた真田が寮の扉を開けると、そこには美鶴だけがソファに座っていた。

「……早いな」

「ん? あぁ、お帰り」

 何かの雑誌を呼んでいた美鶴はちらっと真田を見てから再び雑誌に視線を落とす。

「珍しいな」

「あぁ、今日は定例議会が早く終わってな。たまにはいいかと思ってね」

 何の雑誌を読んでいるのか、集中していて気もそぞろな返答しか帰ってこない。

「他の奴らは?」

「まだ帰って来てないみたいだな」

「……ふん」

 だから何だという訳でもない。ただ、何となく部屋に帰りがたく、ソファを後ろから乗り越えて、美鶴と体一つ分ぐらい間を開けて隣に身を沈めた。

 鞄を反対方向に放り投げて、腰をずるっと下げて、だらしなく足を組む。

 別にそれで何を話すわけでもない。ただ、隣に座って、ページをめくる音を聞く。

「……なんだ」

 美鶴が本から目を上げぬまま、先に沈黙を破った。

「いや」

 真田も顔をそちらに向けるでもなく、それ以上何も言わない。

「……なんなんだ」

 美鶴がため息をついて、諦めたように雑誌を閉じた。

「いや、別に」

「明彦」

 やっと、体を明彦の方に向けて呆れたように名前を呼んだ。

「……いや、ただ久しぶりだと思っただけだ」

「何がだ?」

「他に誰もいないのが」

「…………」

 自分たちの他に声は無くて、自分たちの他になんの気配もなかった。

 シャドウに対して自分たちに出来ることを二人で相談しあって、実際に二人だけで戦って。

 二人だけだった。



「……そうだな」



 再び美鶴は、雑誌を開いて背もたれに体を埋めた。

 ページをめくる音が、部屋を支配した。