時々、人間にはそれぞれいるべき場所があるのではないかと考える事がある。

 ……自分はとても場違いな所にいるのではないんじゃないかって。

 

 

 placeless

 

 

「カミュー様は特別ですよ。」

「…………。」

 まだ若い騎士に憧憬を込めてそんな事を言われた時、俺は不覚にも一瞬止まってしまった。

 

 戦いが終わると誰かが言い出すとも無く自然に人が集い、宴が始まりだす。戦いの始まる前と終わった後、一番城が活気付くのは決していい事ではないのだが。

 無礼講の酒の席でまだ幼い軍主はやたら人気者で、酒のつまみに引っ張りまわされ、苦労性の不運男が一々フォローにあたっては代わりに酒を飲まされるという光景を遠目に眺めながら、俺は赤騎士達と同じテーブルについていた。

 長年の友は宴の最初の方で傭兵達におもちゃ代わりに拉致されて見失ってしまった。どれだけおもちゃにされたことかと少し哀れになる。まぁ、それでも明日の朝にはぴんぴんしていることだろう。

 そんな事を考えながらまだ若い騎士たちにせがまれるがまま昔の体験談を披露していた。

 初めて戦に出た話、極秘任務で敵地に赴き一人取り残された話、あるいはもう終わった女性との昔話。一つ一つに深く感嘆の息を漏らす青年たちを相手するのはそれほど嫌いではない。性質の悪い傭兵達に絡まれるのに比べれば、の話だが。本当に相手をして欲しい女性たちはもう部屋に帰ってしまったらしい。

 そろそろ宴もお開きか、と気を緩めた時にその言葉は発せられたのだった。

「……そんなことないよ?」

 どうすれば早く剣の腕が上達するのですか?

 そう聞かれたので、剣の道に近道など無いよと答えたらそう言われた。否定してはみたものの本当は焦った。心の内を覗かれたかと思ったから。

「いやぁ、でもカミュー様はすごいよな。」

 うん、多分そうなんだろうね。

「そうそう。なんていうかなぁ、剣降ってる時すら優雅でさぁ。」

 だけど、君もあと3年もすれば俺と同じ年になるんだよ?

「綺麗なんだよなァ、カミュー様。剣を抜いてからの最初の一振り。」

 そんなに呑気な事言っていいの? 3年後の今日、同じ年になった君は今の俺と対等に剣が振るえるの?

「・…・やっぱカミュー様特別だよなぁ。」

 

 ――マイクロトフはどこだ。

 

 コトン。

 決して大きくは無いけれど杯を置いた音は奇妙に良く響き、一瞬俺のテーブルが静まった。

「なんにしても地道な努力無しに剣の腕は得られないよ。その為には明日の朝から訓練に励まなければな。……ちょっと飲みすぎたな。今日のところはお開きということにしよう。」 

 それでも笑顔でいうと同じテーブルの者はなんとなく俺の気迫、と言っていいのかわからないものに呑まれて小さく顔を見合わせた後誰とも無しに立ち去って行った。俺はその背を見送りながら残った酒をあおった。心地よい酔いはどこかに飛び立ってしまった。

 マイクロトフはどこだ。

 

 

 今から新たな話し相手を探すのも面倒なので火照った頬を冷ますのをかねてマイクロトフを見つけに行くことにした。なんとなく話したかった。

 探すんじゃなかった、と思った。

 マイクロトフは簡単に見つかった。月明かり落ちるテラス、マイクロトフは彼女と、……ナナミ殿といた。

 俺の声は喉で凍って滑り出て来ず、だからと言って立ち去る事も出来ず、俺の目は2人に奪われ、ただの出歯亀野郎に成り下がった。

 ……長年の友はこの城に来てからとても穏やかな表情をするようになった。

 正義感の強いあの男は、ハイランド軍が動き出してからずっと何かに焦っていた。それは愛すべき騎士団への不審と、何も無し得ぬ自分の非力さへの怒りだったように思う。

 それに少しほっとしたいたこともある。今の現状に不服を盛っていることは正常であると判断できたから。そんな事すら自分で判断出来ないのかと笑われてしまいそうだが。

 だけどほっとしていたのだ。少なくてもマイクロトフが憤っている間は俺の役目があった。

 マイクロトフをなだめているのはいつだって俺の役目で、それは決して楽ではなかったけれどだけど不快ではなかった。

 なのに。

 明るい笑い声を立てる少女の傍らに腰を下ろす友はとても優しい笑顔をその精悍な顔に湛えている。久しく見ていないその表情を彼女はあっさりと引き出してしまった。

 そういう所、正直かなわないなと思う。すごい、と素直に思う。

 何を話しているのだろう。身振り素振りを交えながら話す少女とそれに小さく頷く友を壁にもたれながら見ていた。

 時折共に肩を振るわせる月明かりの下の2人はなんだか幼い頃見た童話の絵本の中のようで、急激に息が苦しくなる。

 俺はそれ以上そこにいるのが辛くて踵を返した。

 

 自分のいる場所はここではないんじゃないかって。

 

 親指の付け根を噛む。今朝つけた香水の残り香が微かに匂った。

 重い足を引きずって屋上に行こうとして力尽きて階段に座りこんでいた。

 ゆっくりと吐き出す息が酒臭く熱い。酒のせいで感覚が鈍ってるのだろうか、噛んでいるのに痛みを感じない。

 ……もっと力を込めたら、肉を食いちぎれるだろうか。寄りかかった壁が冷たい。

 そんな事をぼんやりと思いながら少し顎に力を込める。ゴリっと筋の動く嫌な音がした。

 もしもこのまま……。

「……何やってるんですか、カミューさん。」

「…………え?」

 上から影が落ちて、ついでに声も降ってきて、ぼんやりと口を離しながら上を見たらそこには友といた少女が立っていた。

「……ナナミ殿?」

「……何してるんですか、歯形ついちゃったじゃないですか。」

「え? あぁ……。」

 暑くて手袋を脱いでいた手には確かに自分の歯形がついていて、ようやく自分が何をやっていたかに気づく。

「いえ、……何してるんでしょうか、私は……。」

「……もしかして酔ってます?」

 膝を曲げて俺の顔を覗きこんできた少女にちょっと苦笑した。そうかもしれない。

「隣いいですか?」

「どうぞ。」

 少女はいつだって視線を真っ直ぐ合わせてくるからちょっと時々それがきついので、だから隣に座ってくれるのは正直ありがたい。それは同時にしばらく逃げられない事を示すのだが。

「……マイクと一緒にいたんじゃないんですか?」

「うん、部屋に戻る途中だったんだけどね。」

 あぁ、そういえばここは彼女の部屋への通り道だったか。どうやら随分酒が頭に回っているらしい、そんな事にも気が付かなかったなんて。

「それは引きとめてしまったようで悪かったですね。」

「いいのよ。本当はもうちょっと誰かとお話したかったんだけどマイクロトフさんに追い返されちゃったんだから。……見てたんですか? マイクロトフさんといたの。」

 ……どうやら本当に飲み過ぎたらしい。言葉を滑らし過ぎだ。

「ここでアナタを引きとめたらマイクロトフに怒られてしまいますね。お部屋にお戻り下さい、ナナミ殿。」

「……何も話したくないなら聞きませんよ?」

「……何時の間にそんな可愛げのない言葉を覚えてしまったのですか?」

 そういうと少女は膝を抱えてへへっと笑った。酔っているのだろう、頬は微かに紅潮して動作が緩慢だ。

「そうだ、まだ言ってませんでしたね。おめでとうございます。今日の勝ち戦カミューさんの功績だったんでしょう?」

「いえ、シュウ殿の言われた通りにしただけですよ。」

「またまた。」

 それ以上言うと嫌味になるのもわかっていたので曖昧に笑って誤魔化したら、少女は笑顔を保ったまま、だけど急に瞳の力を弱くして言った。

「……カミューさんて、誉められるの苦手ですよね。」

「はい?」

「いえ、なんでもありません。」

 そんなこと中途半端に言われたら余計気になるもんではないですか。

 気になってちょっと問い詰めようとしたら、少女は後ろに倒れこんでしまった。ゴツゴツした階段は背中痛くないですかとか言おうとしたが、酔っ払いに道理を説いても意味ないので止めておいた。俺だって先ほどそんな事したばっかりだし。チラッと見たら大分跡が薄くなっていた。

 少女は気持ちよさそうに伸びをしてから、ふと力を緩めて天井に向かって指を伸ばした。手を軽く揺らして指の隙間から天井を見ていた後一度だけ何かを掴もうと腕を伸ばし、途中で力を抜いて曲がった指で自分の顔を覆った。

 ……酔っ払いほどわけのわからぬ行動をする奴はいない。だけど酔っ払いほど自分の願望に素直な奴もいない。

 その行動はあまりにいろんなものを想像させて、だけど聞くために心の内部に踏み入る勇気もなかった。

「……カミューさぁん。」

「はい?」

「やっぱ聞いていいですか?」

「何をでしょう。」

「……何かありました?」

「……どうしてでしょうか。」

 揺らぐ。

「うん、なんとなくなんだけどね。」

 少女は顔から手を離してふと遠くを見ながら言った。

「……どうして声かけてくれなかったの?」

「…………。」

 

 だってそこは。

 

「……類は友を呼ぶって言葉あるじゃないですか。」

「似ている人達は自然と引き寄せ合うっていう、あの……?」

「えぇ。」

 唐突な言葉に、だけど少女は答えを急がず答えてくれた。

「それって本当だなって最近しみじみ思うんです。」

「……どうして?」

 その間はなんだか今日の俺には絶妙で、次の言葉が上手に促される。

「この城は優しい。」

 壁にもたれかかりながら言った。

「個性はバラバラなのにどこか最後の一線が似ているんです。スズメ殿にかもしれないし、ビクトール殿にかもしれないし、……貴女にかもしれないし。」

「…………。」

「暖かくて、皆優しく素直で・……。」

 だから自分が異端ように思える。

――「カミュー様は特別ですよ。」

 どうしてそんな言葉を憧憬とともに吐けるのだろう。俺には……。

 前髪をかきむしった。

「……俺には言えないんだ、あんな台詞……。」

「…………。」

 

 俺には言えない。

 嫉妬に狂う。

 自分より優秀な奴がいるなんて認められるわけないじゃないか。

 どうしてそんな言葉を吐けるのだ。悔しくないのか、プライドは無いのか。

 だけど急に不安になる。おかしいのは俺のほうなのじゃないか?

 だからマイクロトフに居て欲しかった。

 お前ならそんな位置に死んでも甘んじたりしないよな? 少なくとも剣の腕では。お前は、……お前は俺と一緒だよな?

 それを疑った事など無かったのに。ずっと隣にいると思っていたのに。

 なのに不安になったんだ。貴女の傍らにいるあいつを見たら。

 そんなの俺の勝手な思い込みじゃないのかって。

 あぁ、お前もそんなに穏やかに笑えるんだなって気が付いたらそしたら。

 

「ここにいる人達は優し過ぎて。」

 自分がここにいていいのかわからなくなる。

 酔いに任せて言ってしまえばいいのに、それでも消えきれない理性が今は恨めしい。

「……変なの。」

「…………。」

 少女は手の隙間から柔らかい微笑を湛えて俺を見ている。

「カミューさんは違うみたい。」

「……私は……。」

 その笑顔に、自分はどう答えればいい。その笑顔に咎められるのが怖い。

「変なの。」

 少女はくすっと笑って俺に手を伸ばしたが、指は届かなかった。

 ……その距離が俺達の距離を表しているようだった。こんなに近くにいるのに触れ合えない。

 こんなに近くにいるのに。せっかく手を伸ばしてくれたのに。

 

 駄目かな。やっぱり駄目だったかな。 

 

 諦めではなく納得に近い感情で必死に伸ばそうとする指をそっと払おうとした時。

「だってカミューさんだって滅茶苦茶引き寄せられてるじゃないですか。」

 少女はひょこっと体を起こすとあった空間なんかあっさり埋めて俺の前髪に指を指しこんだ。

「…………。」

 ――うわ。

「どっちかっていうと引き寄せてる側の人間なんだから。そんな事言ってたなんてばれたら怒られちゃいますよ。」

「……怒られてしまいますか?」

 怖い人。笑顔でそんな事を言う。

「えぇ、絶対に。」

 彼女は楽しげに結構失礼な事を断言してくれて、だからなんだか急激にそうしたくなって彼女の手を取った。

 彼女の手は年頃の女の子によりも硬い。毎朝一人で鍛錬を欠かさない事を知っている。大切なものを間違えないその心が眩しいから瞳を閉じ、愛しくてその手を引いて唇を寄せた。

「? カミューさん?」

 薄く目を開くと少女は酒に潤んだ瞳のまま、何が起こっているのかわかっていないのだろう、きょとんと目を開いて緩慢な動きから重力に引っ張られたように首をかしげた。

 今俺は酔ってるよな。自分で確認してから少女の腰に手を回して軽く唇を合わせた。

「……カミューさん?」

 ナナミ殿は相変わらず瞳をきょとんと見開いている。

「はい。」

「今何かしました?」

 本当に良くわかってないようだったので笑顔で言ってみた。

「気のせいではないでしょうか。」

「あ、なんだ、気のせいか。」

 納得してくれるところがとても好きです。だけどそんなにあっさり納得されると男としてはどうでしょう。

「あ〜、眠くなってきちゃった。」

 少女はまた再び後ろに倒れこもうとしたので腕を引っ張ってそれを妨げた。

 「なんですか?」

「そんなところで寝たら体が痛くなってしまいますよ。」

 部屋に連れて帰るのが百点満点だと言う事は知っていたがもう少し人の温もりに触れていたくて二段ほど階段を上がって足の間に少女をはさんで自分にもたれかからせた。

「あ。楽チ〜ン。」

「それは良かった。」

「あはは。気持ちい〜。」

 少女は柔い体の力を抜いて俺に体を預けて瞳を閉じた。夢と現をさまよう彼女の口元には幸せそうな笑みがあった。

 やがて呼吸は健やかな寝息に変わり、彼女に寝場所を進呈できた事に胸のうちが温まる。

「……おやすみなさい、レディ。」

 明日も戦いは終わらないから、だから今はいい夢を。

 俺は少女の首に両腕を回してその肩に顔を埋めた。眠った事により温もりを増した少女の体は気持ち良く、俺も心地よい眠りに身を委ねた。

 

 

「……にやって……だ、こいつらは……。」

「……の中で遭難したんじゃねぇ……?」

「……にかく、……メに見つかる前に……。」

 ふっと意識が現に引き戻される。まだ腕の中に温もりは残っていて、だけど周りが騒がしい。

「おい! おい、起きろ。カミュー!」

 あぁ、フリック殿の声だ。肩を揺さぶられてゆっくりと顔を上げた。ゆっくりと開いた瞳に光が取り戻される。

「おや……、おはようございます。フリック殿。」

「おはようじゃねぇ。何やってるんだ、お前は!」

「何、と言われますと?」

 なんとなく想像はついたのが手を離すのが惜しくてそのままとぼけてみた。

「いいから、起きろ! こんなところスズメに見られたら……!」

「……見られたら……?」

「…………何時からそこにいた、スズメ。」

「ご安心を。ついさっきからですよ。」

「カミュー! お前は一体何をしてるんだ!!」

「……声大きいよ、マイクロトフさん。」

「あ、申し訳ありません。」

 フリック殿の背後には我が主と古い付き合いの友が立っていた。マイクロトフの大声に少年は眉をしかめる。

「ったく、起きたら部屋にいないからどこに行ったかと思ったら。ちょっと、ナナミ! 起きてよ、もう。」

「ん〜。」

 スズメ殿が姉の肩を揺さぶるとナナミ殿は小さくごねるように体をひねって俺の膝に顔を寄せた。

「……!」

「おやおや、良くお眠りですね。」

「ナナミ! 起きて!!」

 スズメ殿はムキになったように再び大きく少女の肩を揺さぶった。

「ん、……あれ? スズメだぁ。おっはよ。」

 少女はとろんとした声のまま上手に朝の挨拶をした。

「おはようじゃないよ、ナナミ。こんなところで何してるんだよ!」

「ん〜?」

「そうですよ。あのあと部屋に帰ったのではなかったのですか?」

 

「……あ〜。」

  スズメ殿とマイクロトフが2人して問い詰めたが少女はマイペースに軽く首を傾げてから満面の笑顔を浮かべた。

「うん。部屋に帰ろうと思ったらここでカミューさんと会って。……なんで寝ちゃったんだっけ?」

「……カミュー?」

 どう言う事だと目で語りかけてくるマイクに俺も笑顔で答える。

「あぁ、ここで座ってたらナナミ殿がいらしてな。……どうして寝てしまったんだったかな。」

「女性をこんな場所で寝かせるのが騎士のすることか!」

「おや、寒かったですか? ナナミ殿。」

「ううん、全然。」

「だそうだけど?」

「屁理屈をこねるな!」

「とにかく起きて、ナナミ。」

 スズメ殿が両手で引っ張り上げてしまったので俺の腕の中からするりと少女がいなくなってしまった。淋しい。

「ん〜。良く寝たァ。」

 気持ちよさそうに伸びをした少女の頭をフリック殿がコツンと叩いた。

「良く寝たじゃないだろが。びっくりしたんだぞ。」

「えへへ。ごめんなさい。」

「もう。行くよ、ナナミ。」

 少女の腕を引っ張って自分の部屋に戻ろうとした主は一度だけ振りむいて思いきり舌を出した。ナナミ殿が気にせずひらひらと手を振る。。思わずくすっと笑ってしまった。

 その俺の前に頬を赤らめながら目を逸らして苦虫を噛み潰したような顔で立った男がいた。

「……何? マイク。」

「……なぁ、お前……、なんでこんなところで、その……。」

 大層に気になっているだろうに聞けない頑固者。俺が腕を伸ばすと意図を察して引っ張り起こしてくれた。

 聞きたい。一体何があったのだ。いや、しかし。

 顔中でその心中の葛藤を表して顔を赤くしたり青くしたりする友をもう少し見ていたかったが、思わず吹き出してしまったから俺の負けで素直に教えてやることにした。

「大丈夫。お前が心配しているような事は何もないよ。」

「ベ、べつに俺は何も心配なんか……。」

「そうか?」

 素直に感謝しない男は多少いじめられても仕方がないと俺の中で決まっているので自分のルールに素直に従う事にして、俺は階段を降り始めながらすれ違いざまマイクロトフの肩に手を置いて呟いた。

「しかし、ナナミ殿も女の子だな。」

「……は?」

 焦った声をあげたマイクロトフを無視してトントンと階段を降りると大きな犬があとをついてくる。

「おい、ちょっと待て。それはどう言う意味だ!」

「ん? 何も心配してなかったんじゃなかったのか?」

「いや、確かにそう言ったが、いや、そう言う意味じゃなくてだな……!」

「あぁ、今日はいい天気だなァ。」

 ぐぅっと伸びをする。

「おい、カミュー。聞いてるのか。」

 マイクロトフが肩を掴んで振り向かせようとしたから逆らわず後ろを振り向いた。あまりに素直な俺の行動に少し怯んだマイクの顔が間近にあった。

 にっこり笑う。

「な、なんだ。」

「……あの方は、本当に怖い人だな。」

 そういうとマイクはきょとんと目を見開いてから、ちょっと笑った。

「あぁ、そうだな。」

 曲げた首がコキっとなった。

 マイクロトフがまた笑った。 


from 幸福詐欺師