Memories 

 

  図書館の脇を通りぬけて商店街の方に歩いていく。心地よい風を受けて少女は心地よさそうに髪を抑えている。

 この一週間バタバタしていて外出どころではなかったのかもしれない。とても気持ちよさそうだ。

「……ナナミ殿」

「はい?」

「聞いてもいいですか?」

「なんですか?」 

 少女は軽い動作でくるりと振り返ってマイクロトフを見た。

「……どうして俺を誘ったんですか?」

「え?」

「いえ、散歩どうして俺を誘ったんでしょう」

 自分が愛想にかけるのは自覚している。

「一人でしても詰まらないかなと思って。あ、迷惑でした?」

「あ、いえ、そんなことは決して……」

 心配そうな顔をしたナナミにマイクロトフは首を振る。

 少女はほっとしたように笑顔を取り戻し、再び歩き出した。

「なんかこの所バタバタしてたから全然ゆっくり出来なくって。スズメもなんかずっと傍にひっついてるし」

「ナナミ殿も嬉しいのではないですか?」

「ん〜、まぁいやじゃないですけどね。……なんであんなに甘えん坊になっちゃったかなぁ」

 不思議そうに首をかしげた姿に少し笑う。

「キャロにいた頃からではなかったのですか?」

「?」

 あのシスコンぶりはと言いかけて口を閉ざし、別の言い方を探す。

「いえ、俺がこの城に来た時から貴方方姉弟はとても仲が良かったですから」

「そりゃまぁ仲悪くは無いと思いますけど。この間まではなんか恥ずかしがっちゃって全然遊んでくれなかったのに」

「そういう年頃ですから」

 いいつつあの少年にそういう時期があった事に驚く。

「だけど過保護過ぎな気がするんですよねぇ」

 それはこんな環境に置かれてしまったからだろう。

 口元に手を当てながら考え込む少女は年相応のあどけなさで、それに距離を感じえなかった。

 その時通りの向こうからあまり人相の良くない男たちが歩いてきた。ナナミを見つけると相好を崩して寄ってくる。

「よー、嬢ちゃん久しぶりだなぁ」

「なんだ、散歩か? 調子はよさそうだな」

 その男たちは傭兵の砦からずっと一緒に戦ってきた者たちだった。

「こんにちは」

 ナナミは丁寧に頭を下げる。それを見た傭兵たちの顔が微かに曇った。

「……記憶はまだ戻らねぇのかい」

 少女は少し困ったように微笑んで肯定する。

「そうか」

 男は微かに憐れむように笑んだあと気を取りなおしたようにナナミの肩を叩いた。

「ま、あんまり焦る事も無いさ。気長にいくんだな。じゃ」

 そう言って通りすがりざまマイクロトフに苦しそうな笑顔を浮かべて去って行った。

 暫し無言でその背を見送った。

「……焦る事は無い、か」

 ナナミがポツリと呟いた。

「……怖いですか?」

 少女の横顔を見下ろして言った。遠くを見つめるその瞳はどこか儚い。

「え?」

「兵士が、怖いですか?」

 ナナミはゆっくりマイクロトフを見上げる。

 懐かしい反応だった。マチルダにいた頃、騎士の制服に憧れる少年の眼差しより、目を向けつつも決して一定の距離以上近寄ってこない幼い女の子の方が何故か印象に強く残っている。どんなに立派なお題目があろうと騎士は他者の命を奪うものだと言う事を彼女たちの瞳が忘れさせなかった。

 暫し二人は見詰め合う。マイクロトフの言葉は質問でありながら答えを求める色が無く、ナナミは何も言えなくてただマイクロトフを見上げていた。

「ねぇ、マイクロトフさん。マイクロトフさんって馬乗れますか?」 

 ナナミはなにかを振りきるようにくるりとマイクロトフの前に回りこんで言った。

「え? えぇ、それはもちろん乗れますが……」

「私馬って乗った事無いんです。乗せてくれませんか?」

「……それはかまいませんが……」

 以前乗せた事があるが言った所で彼女を責める気がして止めた。

「本当ですか?」

 本当に嬉しそうに顔を輝かせた少女にマイクロトフは優しい笑みを返した。

「ちょっと待っててください、馬を引いて来ます」

 


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