自嘲でも嫌味でもなく君に聞きたい。

 君の声で聞きたい。

 親を殺めたこの指で、一体どんな未来がつかめると言うの?







 英雄幻想。

 



 かつてあの地には英雄がいた。

 その名はカラス・マクドール。

 紋章と歴史に束縛されたトランの地を開放した英雄の名。

 その身に呪われた紋章を宿し、悲劇をくり返しながらそれでも前に進みつづけた希望の名。希望の光。

 そして彼は今、新たなる英雄の傍らにいる。はずなのだが。



「……困っちゃったねぇ。」

「……どうしましょうか。」

 トランの英雄、カラス・マクドールとて途方にくれることはある。今がまさにそれだった。

 傍らには現在天に愛されている少年の姉君。元気が取り柄のこの少女が少し不安げな表情を浮かべていたので気を引き締めた。

「大丈夫だよ、ナナミ。すぐ迎えが来るさ。」

「……えぇ、そうですよね。」

 言いつつ、本当はあんまり信じていない。

 どうしたものか。

 二人は洞窟に閉じ込められていた。





 その日の朝はそこそこ順調だったと思う。

「おはようございます。マクドールさん。お元気ですか? 大丈夫そうですね。きょうちょっとそこまでモンスター退治に出かけるんですけど手伝ってくれませんか?」

 スズメがこういうことを言い出す時、その選択肢にノーを用意していない。

「……おはよう,スズメ。君も元気そうでなによりだよ。」

 寝ぼけた目をこすりつつ一体自分は何をやってるのだろうとそれでも冷静な場所で彼は考える。

「……で、なんだって?」

「モンスター退治です。結構強いらしいんですよ。付き合ってくれますよね。1時間半後に出発ですから。準備しておいてくださいね、迎えに来ますから。ちなみにパーティーは僕とナナミとその他三名です。じゃ。」

 そう言い捨てるとさっさと部屋から出ていってしまった。

「…………起きるか。」

 もぞもぞと布団から抜け出してカラス・マクドールは大きく伸びをした。深呼吸をする。また朝が来たのだと実感する。

 スズメがあぁ言ったからには本当に迎えに来るのだろう。他三名というのが誰なのが気になったがとりあえずナナミが来るのならあまりだらしない姿を見せるわけにも行かないだろう。

 今朝は水が冷たいだろうな。少し憂鬱にながらタオルを持って顔を洗いに行った。

 



「なんだ、その他三名ってみんなのことだったのか。」

 迎えにしたがって他の面子がいる広場に行くとそこにはフリックとビクトール、それにルックがいた。

「……なんだ? その他三名って。」

「聞かないほうがいいんじゃないかな。」

 察してくれたらしいフリックはそれ以上何も言わなかった。

「おはようございます、マクドールさん。」

「おはよう。ナナミ。」

 何時も元気な少女はやはり今日も元気で、いつもの満面の笑顔で迎えてくれる。裏のないこの笑顔がカラスは気に入っていた。

「今日も元気そうだね。」

「こいつが元気ないのは腹減ってる時ぐらいだろぉ。」

 ビクトールがガシガシとナナミの髪をかき乱した。

「ちょ、ビクトールさん。」

 髪の毛がぐちゃぐちゃになったナナミが抗議の声をあげたが気にせずビクトールは笑っている。スズメもその様を見てにこにこ笑っている。

 スズメがそのシスコン魂を発揮させるのは相手による。完璧にビクトールは警戒しておらず、それがいいのだか悪いのだかは本人に聞いてみないとわからない。

「失礼しちゃうなぁ、もう。」

 髪を直しつつふくれっつらでそんなことを呟くナナミにカラスが思わず肩を振るわせた。

「……マクドールさん。」

「ごめんごめん。」

 そういって直したばっかりの髪をなでる。

「じゃ、出発しましょうか!」

 こっちはあからさまに敵視されてるのでスズメがナナミの背中を押してカラスから引き離しつつ出発の号令をかけた。

「……バカらし。」

 相変わらずルックは可愛げがなかった。





 それから2時間後のことである。

 モンスターを追って森に入ったが見失い、その時発見した怪しげな洞窟に仕掛けられていた罠にうっかりナナミがはまってしまったのは。

 目を離していた隙にナナミが洞窟に入りこみその奥にあった宝箱に手を伸ばしたら入り口の岩が崩れ落ちた。一番近くにいたカラスが飛びこんでナナミの元にたどり着けたのは幸いと言えるが、だからと言って状況は変わらない。

 二人は暗い洞窟の中に完全に閉じ込められてしまった。





――「おーい、ナナミィ、マクドールさん? 聞こえますかぁ?」

 岩の外からくぐもったスズメの声が聞こえる。

「あぁ、聞こえるよ。」

――「二人とも怪我はないですか?」

「ナナミ、怪我は?」

 尋ねると小さく首を振る。

「あぁ、大丈夫。二人とも無事だよ。」

――「僕達どっか違う入り口探しますからそこでじっとしててください。」

「わかった。早めに頼むよ。」

 あんまり人の行動を大人しく待つというのは好まないのだがこの場合はしょうがないだろう。カラスは小さくため息をついて岩壁にもたれかかった。

「ごめんなさい、マクドールさん。」

「……怪我が無くて良かった。」

 洞窟の中は暗く様子はよく見えないが落ち込んでいるであろうナナミは容易に想像できた。

「ま、大人しく助けが来るのを待ってよう。」

「……はい。」

 しょぼんとした声だけが返ってきて、それになんだか違和感を感じる。こういう時大人しく迎えを待つような少女だったか?

「……ナナミ。」

「はい?」

「こっち来たら?」

 洞窟の宝箱の前でちょこんと座り込んでいるナナミに声をかける。何かにもたれかかっていた方が楽だろうに。近くにいた方が暖かいし。

「え? あ、はい。」

 ナナミはそう答えたがその場から動こうとはしなかった。

「ナナミ?」

「あ、いえ、ここで平気です。」

「いや、平気ですって……。」

「いえ、お構いなく。」

「…………。」

 暗闇の中、カラスは当てずっぽうで歩きナナミの元に行き傍らに腰を落とす。

「……どこ?」

「え?」

「どこ怪我したの?」

「いえ、怪我なんてそんな別に……。」

「さっき大丈夫だって言ったよね?」

「……首振っただけだもん。」

「それで言い訳してるつもり?」

 自分でも苦しい言い訳をしてるのはわかっているのだろう。押し黙ってしまった。

「どこ?」

「……足首。ちょっとひねっちゃったみたい。」

「……そう。立てる?」

「ん〜、わかんないです。」

「ちょっと立ってみて。」

 カラスは立ちあがってナナミの手を取った。

「っ、」

 立ちあがろうとしたが途中でよろけてカラスにもたれかかった。

「……駄目っぽいな。」

「……ごめんなさい。」

「とりあえず壁際に行こう。ここちょうど風の通り道になっちゃうから。」

 凍えるほどとは行かないが体が冷えるのは好ましくない。女の子だし。

 肩を組んでゆっくりと壁際に移動してゆっくり座る。

「……ごめんなさい。」

 あまりにしょげてるので思わず笑ってしまう。

「マクドールさん?」

「ごめんごめん。でも丁度いいよ。」

「……丁度いいって?」

「だってさ。」

 ようやく慣れて来た目にナナミの不思議そうな顔が映ってくる。

「怪我でもしてなければナナミ出口探してここでじっとなんてしてないだろ?」

「そ、そんなことないもん。」

 図星だったらしく分かりやすい反応が返ってきてまた笑う。

「……痛くない?」

「あ、動かなきゃ大丈夫みたいです。」

「そう、なら良かった。ビクトールもフリックもいるから帰りは負ぶってもらえばいいさ。」

「嫌ですよ、恥ずかしい。スズメに直してもらいます。」

「……あぁ、そうか。」

 忘れていた。

 輝く盾の紋章。

「……そうか、治癒の力もあるんだったね。」

 小さく、自分に語るように呟いた。

「……全く、俺の紋章は奪うだけで役に立たないったら。」

「…………マクドールさん。」





 右手を掲げて手袋の下にある忌まわしき紋章を見る。

 この紋章を憎んだことがないといったら嘘になる。

 自分からどれだけ愛するものを奪えば気がすむ?

 希望の光と言うにはあまりに禍禍しい力。使う時はいつも怖くて。

 これを渡したのがあいつでなければ、自分は最後まで戦うことが出来ただろうか。

 ……正気を保つことが、出来たのだろうか



「……マクドールさん、あの……。」

「あ、ごめん。何でも無いよ。」

「あの、いえ、……そうじゃなくて……。」

 そうじゃなくて、何?

 思いを上手く表現できずナナミは口の中で言葉を浮かべては消していった。

「……ごめん、卑屈な言い方したね。別に気にしてる訳じゃないんだ。」

「嘘。」

 反射的に言葉が口をついた。

 嘘だ。よくわからないけど、でも嘘だということだけはわかる。

「……辛いですか?」

「……そんなこと無いよ。」

 やんわりと笑ったカラスの顔が見えた気がした。

「……嘘だ。」

「……そんなことないよ。」

「嘘だもん。」

 ナナミが小さくカブリを振る。

「そういう言い方するときカラスさんいつも嘘ついてる。」

 そして、優しく人を拒む。自分の中に誰もいれないように。引かれた線は薄く、でも硬い。

「……マクドールさんは人間が嫌いですか?」

「そんなこと無いよ。」

「じゃ、どうしてそんなにみんなを拒むんですか?」

「…………。」

 気がついてる。ナナミだけじゃない。きっとみんな。 

 カラス・マクドールがそこにいて、優しく笑う。それだけで人は安らぐ。

 だけど、わかってる。

 カラス・マクドールはいつその翼を休める?

「……マクドールさんいつも笑っててくれるけど、だけど心の底から笑うところ見たことが無い。いつだってどっか高いところにいて、同じ所来てくれない。」

 以前ビクトールに聞いたことがある。

「……テッドさん。」

 カラスの体がビクッと震えた。

「聞きました。その人の前ではマクドールさん普通の子供に見えたって。何も警戒しないで、ただのマクドールさんでいられたって……。」

「……そんなこと言われてもな……。」

 苦笑をもらす。もうちょっと相手がオトナならこれで話を止めてくれるのに。

「ずっとそうしているつもりですか? たった1人でずっと辛い思い抱えて生きてくんですか?」

 そんなところをつつかないで。

「そんなの。そんなの絶対おかしいじゃないですか。」

「だってしょうがないじゃないか。」

 自分の声がこんな時にでも冷静なことがカラスには少し苛立たしかった。

「……誰かを好きになって、そして、またこの紋章に食らわれる所を見ろとナナミは言うの?」

 もう、あんな思いはまっぴらだ。

「……もう止めよう、こんな話……。」

「よくない。全然よくない。」

 ナナミは膝立ちになって俺の両肩に手を乗せた。

「じゃあ、マクドールさんはずっとそうやって1人で生き続けるの? そうやってずっと、ずっと1人で……。」

 どうしてこんな話してるんだ、俺は……。

「そんなの淋しいじゃないですか。人間1人じゃ生きていけないようになってるんです。」

 ビクトールやフリックですら踏みこんでこないところ容赦なく入ってきて……。

「そんな紋章が何!?」

「……ナナミ!」

 思わずかっとなってナナミの肩を掴み返した。制御しきれぬ力がナナミの細い肩に食い込んだが、少女は怯まず凛とした声で叫んだ。

「テッドさんはそれでもマクドールさんを好きになりましたよ!」





 ――テッド。





 名を浮かべるだけで胸が痛む。

 いつも勝手で、人のことを振りまわしてばかりで、それでも憎めなくて……。

 ……お前ほど卑怯なやつにあったことが無いよ。

 胸にいるお前はそれでも笑っていて。

 

 



「……それでテッドが幸せになれたとでも言うの?」

「不幸だったと、あなたは思うんですか?」

 思いたい。そう思えたら自分はどんなに楽になれるか。だけど……。

「テッドさんは幸せを諦めませんでしたよ? あなたは?」

 幸せになりたくないわけじゃない。だけど、だけど……!

 頭にきらめいては消えていく大切な人たちの顔。

 自嘲でも嫌味でもなく君に聞きたい。

 君の声で聞きたい。

「親を殺めたこの指で、一体どんな未来がつかめると言うの?」

「……その答え、私に言わせます?」

 暗闇の中それでも強い瞳に怒りと深い悲しみを宿して真っ向から少女はトランの英雄に相対した。





 微かに少女が苦痛に眉をしかめた。その表情でカラスはナナミの肩を掴みっぱなしだったことに気がついた。

「悪い、痛かった……?」

 ナナミは答えずゆっくりとため息をついて押し殺した声で言った。

「……ごめんなさい、でも、私言えません。」

「え?」

「マクドールさんが言わせたい言葉。私わかるけど絶対言えませんから、その言葉。」

「……ナナミ?」

「わかるけど! わかるし、実際そうなんだけど、私言えないんです!!」

 

 だって仕方が無いじゃない。



「終わっちゃったこと取り戻せないし、過去には戻れないし、だったらその言葉で諦めるしかないけど、だけど私は今の状況そんな言葉で認める気は無いんです!」

 微かに岩の合間から洩れる光が少女の目元の涙に反射して光った。

 歴史とか運命とか曖昧で漠然とした何かに引き裂かれた友情。背を預けたあの頃の友が、今は宿敵で。

 もう、もどれまい。何れかに死によってしかこの戦争は終わらない。

 だけど。

「私は……、私諦める気は無いんです、ジョウイもスズメも未来も。絶対みんなであの家に帰るの。絶対なの。だからその言葉、言えないの!」

 言ってあげれば心は確かに楽になるかも知れない。

 もう、テオ・マクドールは帰らない。それがカラスの罪か? そんなわけない。

 だけどその言葉を吐いたら、今の現実を認めてしまう。

 譲れないものがある。

 そんな言葉で今の現状を認めるわけにはいかないのだ。





 押し殺した声にどれだけの覚悟が秘められていたのか。

 何も言えなくてカラスは少女を抱きしめた。

「……ナナミは、怖いね。」

「……大体マクドールさんは自惚れ過ぎなんですよ。トランの英雄だかなんだか知りませんけど、なんでもかんでも我慢すればいいと思ってるでしょう。」

「そうかな。そうかもね。」

 本当に傲慢だ。こっちの心情を慮るなんてしようともしない。

「そりゃ、マクドールさん強し頭いいし頼りにはなりますけど。お生憎様、私はあなたに救ってもらおうなんて思ったこと一度もありませんから。」

「それは困ったな。」

「英雄だなんだってちやほやされるから勘違いしちゃうんですよ、カラス・マクドール。えらい人の地位捨ててきたんでしょ?」

 ナナミの手が俺の背中をゆっくりとさすった。

「……幸せになっていいんです。それを諦めないで……?」

 その答えにイエスと答えるにはまだ勇気が足りなかったけれど。

「……あぁ、そうだね。頑張ってみようかな。」

 そっと少女の肩に自分の顔を埋めた。



 あぁ、崩れていく。

「英雄」という名の幻想が。

 一番その名に捕らわれていたのは自分だったのかもしれない。

 こんな普通の少女に暴かれた。

――「……幸せになっていいんです。」

 こんな少女に、俺は自分を許された。



 俺は年甲斐も無く、少女の石鹸の匂いがもたらす安らぎに浸っていた。







「ナナミィ! ナナミいるゥ?」

「お前、カラスの名前も呼べよ、一応。」   

 一応と言ったのはフリックだな。

 遠くからの呼びかけの声にカラスがまず思ったのはそのことだった。

 岩の合間で反響してどれぐらいの距離感か今一歩わからないが宝箱の後ろの岩の向こうから聞こえてくる。暗くてわからなかったが穴があったようだ。

「あ、スズメだ!」

 ナナミが嬉しそうな声をあげてカラスから離れて怪我を忘れて声のほうに駆け寄ろうとしてよろける。

「危ないよ、ナナミ。」

 カラスはその地面に倒れこもうとした体の腰に後ろから冷静に腕を回す。

「怪我のこと忘れてただろ。」

「……えへ。」

 スズメたちが駆け寄ってくるのを計算した上でナナミを起こすように見せて抱き寄せた。

「ナナミ、大丈夫だった? って、うお、ちょ、な、カァカァ!」

「スズメ。無事だった?」

 ものすごくこっちの台詞だと冷静に心の中で突っ込んでみたりもしたがそれよりも二人の体勢の方がよっぽど気になるスズメとしては言葉が続かない。

「……何やってんだ、お前らは。」

「なんだ、元気そうじゃないか。」

 その後ろからひょっこり松明を掲げた腐れ縁の二人が顔を出す。ルックはその後ろから無言でついてきた。

「いや、ナナミが足首くじいたみたいなんだ。暗くて様子がわからないんだけど……。」 

 そう言ってナナミを下に座らせる。

「どれどれ。」

 フリックとビクトールが座り込んで松明で照らしてみると、その足首は紫色にはれ上がっていた。

「あ〜、結構痛むだろ、これ。」

「ううん。動かなければ平気だよ。」

 そんなことを言ってる背後でスズメとカラスが小声でぼそぼそと舌戦を交わしていた。「ちょっと、カラスさん。ナナミに妙なことしてないでしょうね。」

「妙なことって?」

「言わせないでください。」

「別に何もしてないよ。……あっ。」

「あっ?」

「ううん。何でも無い。それより随分遅かったようだけど?」

「わざとらしく話を逸らさないでください!」

「随分来るのが遅かったね、ビクトール。」

「だからぁ!」

「落ちつけ。いいから落ちつけ。」

 こういう時に仲裁に入ることがある意味義務付けられているフリックが一応中に入るがそんなことでおとなしくなる二人でもない。

「いやぁ、この洞窟に入れる穴が見つからなくてよぉ。」

「お前も普通に話を続けるな。」

 という感じに大人達が漫才を続けている裏でルックがナナミの側に座り込んだ。

「怪我。」

「ん?」

「見せて。」

「たいしたこと無いよ?」

 本人が言うほど軽くも見えない怪我にルックは眉をしかめた。

「……歩けなそうだね。」

 ぼそっと呟く。

「ん〜。まぁ、何とかなると思うんだけどね。」

 ナナミの言葉を無視してしょうがないと呟くとナナミの腕を取って立ち上がらせてスズメ達に無愛想に言い放った。

「ねぇ、僕達先に城に帰ってるから。」

「……は?」

 期せずして4人の声があった。

 が、その次の瞬間には二人の姿は消えていた。

「…………は?」



 そして取り残された4人は延々と平坦とも言いがたい岩道を引き帰すこととなった。もう大体の座標は割れたのでルックの魔法で一っ飛びするはずだったのに。

「なぁんでこんな羽目になるんだよ。」

「マクドールさんがナナミに余計なことするからぁ!」

「全く抜け目無いんだから、ルックのやつ。」

「あぁ、腹減った。」

 各自が思い思いのこと勝手に話しているのでかみ合ってはいないがフリックに突っ込む元気が無かったので誰も気にしなかった。

「ったく。それで、マクドールさん?」

「何。」

「ナナミに何か変なことしなかったでしょうね。」

「何? 本気にしたの?」

「だってさっき!」

「冗談だろ。」

「本当にぃ?」

 一体自分のことをなんだと思っているのだろう。ナナミとは違った意味で英雄の幻想をはがそうとする今の英雄に内心笑う。

「……怒られてたんだよ。」

「は?」

「スズメのお姉ちゃんはおっかないね。」

 そう言うとスズメは口角を上げてどこか誇らしげに微笑んで言い放った。

「知らなかったんですか? うちの軍の最終兵器ですよ。」

 その言葉にフリックとビクトールがそれぞれ何かを思い浮かべたのだろう。微妙な顔で深く頷いた。

 その顔にカラスが思わず吹き出した。

「……なるほど。手強いわけだ。」

 洞窟を抜ける風は何故か心地よく、まだ見えない光の匂いがした。





――「……幸せになっていいんです。」

 僕が許されたあの日。

 まだ彼女の瞳は輝いて

 


from Crazy*3