崩れ落ちてゆく要塞。
 二人きりの孤島のささやかな平和を与え、壊していった元凶の人と共に、あの方が埋もれてゆく。
 半狂乱になって、海に飛び込んででも助けに行こうとする体を後ろから羽交い絞めにされながら、どこか冷静なところで思った。

 あぁ、あの人は行ってしまうんだ。
 私を置いて行ってしまうんだ。




 lost child 

 




 何もしたくなかったから、何もしなかった。
 戦争が終わり、新たなる国が生まれ、皆が行くべきところに行ったけれど、明晰だと思っていた頭は何も未来を描き出さず、一人ぼうっとしていた。
――「アグネス、酒をもう一杯ついどくれ」
 女性にしては低めの、有無を言わせぬ力を持ったその声で、もう自分の名を呼んでくれることはない。
 その事実がどうしても受け入れられなかった。見るに見かねたのか、リノ王が与えてくれた宮廷の一部屋は海がとてもよく見えた。太陽が昇り、沈み、また昇る。周期的なその動きを断片的に眺めた。何時起きて、何時寝たのか自分でもよくわからない。動かなければ、たいして物を食べなくても結構生きていけるのだななんて実感する。
 そのしぶとさでエレノア様が生きていてくれたらいい。
 扉がノックされるたびに、有り得ないとわかっていながら胸を弾ませる。
 心配かけて悪かったね、なんて少し照れくさそうに笑いながら出てきてくれるんじゃないかって。
 まさにその時、扉をノックする音が聞こえた。
 がばっと、弱った体に力が入る。
 扉まで駆けた。
「エレノア様……!」
「……あ、悪い。俺だ」
「……ハーヴェイ」

 そんな虫のいい話があるわけないなんて、わかってるけど弾む心は抑え切れなかった。
 (そして、その後に至る失望も)



 自分を見下ろすハーヴェイの目が見開かれている。表情を隠すというスキルを全く持たない海の山猿はぶしつけなほどまじまじと見つめてきた。
「……何?」
「あ、いや、ちょっと王様に使いがあったからついでにと思って……」
 言いながらも、今だこの男は凝視を止めようとしない。
「……何か用?」
「いや、用っつうか、なんつうか。……お前、どうしたよ」
「何が」
 もういい年なのだから、もう少し頭のよさそうな顔をすればいいのに。
 理不尽な怒りがわく。
「だって、そんな顔色わりぃ。……随分やせたんじゃねぇか?」
 心配げに手を伸ばしてくる。触れた手の甲はがさがさして、でも温かく、否が応にも生命の存在を主張していて、嫌悪すら感じた。
「……触らないで」
 思わず払いのけた。そしたら、一瞬男が傷ついた目をしたから、余計腹がたった。
 あの人はもう傷つくことすら出来ないのに。
 あの優しくて、気高く、賢い方が。
「……何しに来たのよ」
「だから、王様に用だって言っただろ」
 あぁ、ほら。全然感情を隠そうとしない。
「だったら直ぐに帰りなさいよ」
「顔見るぐらいいいだろうが」
 そんなに怒りを露にしたら足元を見られるに決まってるのに。
「なんで見る必要なんかあるのよ」
「戦友の顔見にくるのに、理由なんかいるかよ」
「戦友?」
 あまりにストレートなその言葉が鬱陶しくて、皮肉げに眉を寄せて、嫌みったらしく笑ってやった。


「勘違いしないで。私はエレノア様がいたからあの軍にいただけよ。貴方みたいな海賊なんかと仲間になった覚えなんかないわ」


 酷い言葉を言ったと思う。
 自分の中の出口のない感情で、相手の誇りを侮蔑した。
 彼が怒りに顔を赤くしたことが、とても楽しかった。


「お、まえ。いい加減にしろよ」
「貴方こそいい加減にして帰って」
「ふざけんなよ、てめぇ。一人で悲劇のヒロイン面しやがって」
「いいから、帰って」
「大事な人失ったのが、お前一人だと思うか? んなわけねぇだろ? 戦争だぜ? だけど、生きてんじゃねぇか。それぞれの場所で、それぞれ今やるべきことしてんじゃねぇか」
「声、大きいのよ。帰って」
「それがお前はなんだよ。こんな所で飯もくわねぇで、一人でうじうじしやがって。お前が、エレノアの一番近くにいたお前がそんなんでいいと思ってんのか?」
「ねぇ、煩い」
 煩い。
 こいつの言葉はストレートすぎて、ダイレクトに響く。
「お前が、やらなきゃいけないんじゃないのか? エレノアの意思引き継いで、馬鹿な大人相手に戦わなきゃいけないんじゃないのか?」
「煩いのよ」
 反響する。
「なぁ、お前が! お前こそがエレノアが望んだ平和を……!」
「黙ってよ!!!」
 耐え切れず怒鳴った。

「世界の平和なんか、どうでもいいのよ……!!」


 涙腺が切れたみたいに、ぼろぼろと涙がこぼれた。



 世界の平和なんてどうでもよかった。
 エレノア様がいればそれでよかった。それだけでよかった。
 優しい人だった。怖かったけれど優しい人だった。
 何も出来ない私に、身の回りの世話をさせてくれた。この世界に私の居場所を作ってくれた。必要としてくれた。
 少しでも力になりたくて、頼りになると思われたくて、勉強した。
 自分に軍師としての才なんてろくにないって分かってる。それでも、勉強する私をあの人は優しく見守ってくれたから。本当のことを言わないで、努力を続けさせてくれたから。

「……どうして……」
 あの人は行ってしまった。
「どうして、ですか」
 私を置いて行ってしまった。
「…………エレノア様……」


 あの人の人生の、一番深く暗いところに関わる資格を、私は持ち得なかった。



「……泣くなよ」
 膝を突いて、子どもみたいに泣きじゃくる自分の頭に、温かい手が置かれた。
「なぁ、泣くなよ」
 困ったような男の声。泣かせたくせに図々しい。
「なぁ。……俺、駄目なんだよ。女が泣くの……」
 途方にくれたような困った声。どうせなら、もっと困らせてやる。
 ハーヴェイの服、胸元を掴んで額を押し当て体が望むままに泣いてやった。
「あ、おい。……アグネス……」


 困らせてやるだけだ。
 困らせてやるだけだ。
 ただ、それだけだ。

 なのに、脳裏に浮かぶエレノア様は、何故か優しく微笑んでいた。

 


幻水4から、ハーヴェイ×アグネスと言い張ってみたいものです。

いや、アグネスはよう考えると切ないなぁってそれだけの話なんですが、ハーヴェイを出した意味とか本当に聴かれると困る上、偽者臭いだなんて言うに及ばず、っていうか、そもそもアグネスがED後どうなったかもよく覚えてないよって言う管理人に書く資格があるのか、だって思いついちゃったんだもんってなもんです。

4ではミレイとかフレアとかも好きです。ミレイは4主とならぶとビジュアル的に好きで、フレアはうっかりトロイとロマンスを繰り広げてればよいよと思う。

……くそう! 女の子が致命的に不足してるよ! 一番印象に残ってるのがジーンって辺り少女スキーの私からすれば有り得ない。